おしえて先生

今、私たちに出来ること

今回の「おしえてせんせい」は、ご相談ではなく、保育士会の会報誌「ぷりずむ vol.121」に掲載された藤岡佐規子先生のコラムに感銘を受け、どうしてもドンナ・マンマの読者の方にもご一読頂きたく掲載させて頂きます。是非、読まれてください。

  歳月の加速を実感する昨今、記憶に誤りがあるかも知れないが、もう二十年余り前に、"「この味がいいね」と君が言ったから、七月六日はサラダ記念日"と詠んで、短歌の世界に新風を齎した俵万智さんが男児を出産し、小学校入学までの子育て期間を「至福の時」として綴ったエッセイ集「小さな言葉」が出版された。その中にあった一首

"揺れながら前に進まず子育ては、お前がくれた木馬の時間"

出産前、ひたすら前へ前へと進んで来た二~三十代の頃と違って狭い行動範囲の中で生活しながらも、日々変化してゆく子どもと過す時間が、これまでにない程、心を揺らしてくれる不思議な充実感を詠んだものだ。

  もう一首、  "してやれること、また一つ減りゆきて、子が殻をむく固ゆで玉子"

  うんざりする程の寝つきの悪さに、オリジナルのお話を創り、聞かせながら寝せつけた三歳の頃、こんなお話づくりも今年の秋までかも知れないと固ゆで玉子をむけるようになった息子の成長の喜びと、してやれることが一つ一つ減ってゆく淋しさを詠んだものだ。
  僅か三十一文字で、こんなにも豊かで、しなやかな親の思いを表し、読者を感動させる才能を羨みながら、現在、つくづく思うのは子どもは生れる場所を選べないという事実である。

  新年度が始まってから、報道される虐待記事のスクラップを始めたが、あまりにも多い子どもたちの受難の日々に心が痛む。
・泣き止まぬ乳児に逆上し壁に投げつける親
・おもらしをすると粘着テープで浴槽の蛇口に縛りつけ六時間監禁した親
・イラ立って乳児にアイロンを当て一ヶ月の火傷をさせた親 等々
  確かに現代社会は、つらいこと、悲しいことが多く、特に経済的な格差の大きさからも、ていねいに子どもをみる気力を失った親は多いかも知れない。或いは連日の虐待報道が刺激となって連鎖行動を発生させる傾向があることを、ある学会の発表で聞いたこともある。

  三年前、虐待予防一助にと設置された赤ちゃんポストも五十一人が入れられたそうであるが、その設置者も親が手放す行動そのものが虐待であると述べている。
  保育士会のアンケート調査報告で市内の虐待の実態と対応について述べられてはいるものの、発見・通報だけで、それが防げるというものではないだろう。
  「社会みんなで子育てを」あるいは「子育て日本一」って何だろう、努力で金メダルをとった人が政治家になった時、努力しても努力しても浮かび上がれない人たちの存在を認めることは可能なのだろうか。
  自助努力、自己責任、そして自立は大切なことではあるけれど、それを強いられてますます、つらい悲しい立場に追い込まれることはないだろうか。
  子ども手当というお金が子と親の幸せを保障することになるのだろうか。
  子どもに関わるものとしての無力とはかなさを思い知らされながら評論に止めず、私たちが出来ることを今やらなければ悔いを残すことになる。
  新しい職務となった親の子育ての指導にいささかなりとも活路を見出し、思春期を見越した乳幼児期の保育のありようを響き合う形で伝えたいと思うのである。
  俵万智さんの短歌や先日配布した「本当にあった話だよ」なども活用しながら目前の親たちの心をゆさぶりたいと思う。

-ぷりずむVol.121より転載-

 

 
 

1946年、京都女子専門学校保育科を卒業後、光沢寺保育園に入職。以後一貫して乳幼児保育に従事。現在、光沢寺第二保育園園長。北九州市保育所連盟会長、国際婦人開発基金(ユニフェム)日本国内委員会北九州地域等委員会会長、財団法人アジア女性交流研究フォーラム理事、同児童福祉施設等第三者評価委員会・同社会福祉審議会各委員等(以上、現職)。この間、全国社会福祉協議会全国保育士会会長、福岡県保育協議会会長・同保育士会会長、福岡県立大学・西南女学院短期大学非常勤講師等を務める。


●仲間達への定期便(西部読売開発出版部)
●育てよう、いきいきっ子(共著、蒼丘書林)
●子どもと環境(共著、蒼丘書林)
●感性を育てる保育実践領域環境と感性(共著、ミネルヴァ書房)
●感性を育てる保育実践領域人間関係と感性(共著、ミネルヴァ書房)
●感性を育てる保育実践領域言葉と感性(共著、ミネルヴァ書房)
●保育園の窓辺から…(蒼丘書林)
●視点はいつも、子どもたち 保育園の窓辺から…PART2(蒼丘書林)


 

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