おしえて先生

今、3歳の娘です。赤ちゃんの頃から、食べ物を噛まずに吸い、そのまま眠くなってしまうということがありました。そのうち成長すれば、そんなこともなくなるだろうと思っていたのですが、今でもその癖は治りません。食べずに吸っているうちにウトウト…という感じなので、食事の時間も長引くし、食も細いようです。保育園に通っていますが、どうやら園でもそんな調子のようです。いつまでこの癖は続くのだろうと、最近少し不安になってきました。

-バックナンバーからのご紹介-

A

  人の生涯にわたる人間形成の基礎を培う大切な時期が乳幼児期ですが、平井信義先生はこの時期に是非育てておきたいものとして、意欲(やる気)と共感性(思いやり)の2つを強調なさっています。

意欲の源になるのが食欲ですが、昨今、保育現場では、人間の本能の中で最も強いと思われていた食欲をなくした子どもの増加を実感しています。この傾向は、特に3歳になって入園してくる子どもに多くみられ、逆に0歳期から保育園で育つ子ども達の食欲はとても旺盛なのです。多分、家庭の中で、おなかがすいた、食事をした、満足したという体験が得られなくなっているのではないかと思われます。
ご相談では、赤ちゃんの頃から食べ物を吸って、そのまま眠ってしまう習慣が3歳になった現在も変わらず、しかも食欲のないことも心配していらっしゃるようですね。少々気になったのは、「そのうち治ると思った」という言葉です。
実は、赤ちゃんがお乳を吸うのは先天的に備わった能力なのですが、噛む(そしゃく)力は後天的なもので練習が必要なのです。赤ちゃん時代は目覚めている間、熱心にお乳を飲み、時にはあそび半分、おっぱいをしゃぶり、お母さんの温かい皮膚の感触や、まなざしをたのしみながら心も体も発達していきます。しかし、噛む力は、口唇、歯、歯肉、舌、そしゃく筋など、さまざまな器官を使う、とても複雑な運動なのです。そしゃく力を獲得する時期(臨界期)はおよそ1歳半から2歳期といわれます。但し、個人差の甚だしい時期ですから一律にはいきません。その基礎能力は、おっぱいを吸う時期に、おっぱいを飲んで満足したその充実感から生じる意欲が基になります。食べ物に興味をみせ始める頃から人間として豊かに生きていくための正しい食習慣を身につけることの基礎になる離乳食に移り、ステップを踏みながら無理なく噛む力をつけたり、いろいろな味に慣れさせていきます。日々未知な食べ物との出合いの中でチャレンジする心、好奇心、探索意欲が育ち、敏感な感覚器官として口の中で食べ物を分別し、噛むことによって脳を刺激する等、そしゃく力は、とても重要な意味を持っているのですが、前述の食欲のない子どもの中には噛めない、飲み込めないことが原因である場合も少なくありません。しかし、お母さん方の中には、そのことに気づかず、虫歯のせいと考えたり、歯が生えれば自然に噛めるものと思っている方もあるようです。
ご質問では、そしゃく力についての状況が分かりませんが、食べ物を吸うということですから多分、そしゃく力が育っていないのではないかと推察しました。
そうであれば、現在3歳であっても少し前に戻って離乳食からやり直してみるのも一つの方法です。「ごっくん」トレーニングまで戻る必要はないと思いますが、例えば、食パンの耳などで「もぐもぐ」「かみかみ」など始めてみてはいかがでしょうか。
昔の人が1歳前後、上下2本の歯が生える頃、歯ぐきや歯を使って噛むリズムを覚えさせるために、するめや、たくあんの一片を噛ませていたのも理に適った方法です。強くなった歯ぐきや歯を使い、噛み切って食べられる食品を少しずつ増やす等していくと、まわり道のようでも案外早く年令相応の噛む力がつくように思います。
今、手間をかけることで、これから先、永くお子さんの食生活に影響を与えますし、健康な心身を育てる上で大切な意味を持つことになると考えて根気よくやってみてください。気をつけたいのは、子どものプライドを傷つけないよう、噛んで食べようとする意欲を刺激する楽しい雰囲気づくりを心がけるようにしましょう。

 

 
 

1946年、京都女子専門学校保育科を卒業後、光沢寺保育園に入職。以後一貫して乳幼児保育に従事。現在、光沢寺第二保育園園長。北九州市保育所連盟会長、国際婦人開発基金(ユニフェム)日本国内委員会北九州地域等委員会会長、財団法人アジア女性交流研究フォーラム理事、同児童福祉施設等第三者評価委員会・同社会福祉審議会各委員等(以上、現職)。この間、全国社会福祉協議会全国保育士会会長、福岡県保育協議会会長・同保育士会会長、福岡県立大学・西南女学院短期大学非常勤講師等を務める。


●仲間達への定期便(西部読売開発出版部)
●育てよう、いきいきっ子(共著、蒼丘書林)
●子どもと環境(共著、蒼丘書林)
●感性を育てる保育実践領域環境と感性(共著、ミネルヴァ書房)
●感性を育てる保育実践領域人間関係と感性(共著、ミネルヴァ書房)
●感性を育てる保育実践領域言葉と感性(共著、ミネルヴァ書房)
●保育園の窓辺から…(蒼丘書林)
●視点はいつも、子どもたち 保育園の窓辺から…PART2(蒼丘書林)


 

Copyright (C) profitto.co.,Ltd. All Rights Reserved.